第4話:打算のないやさしさ 〜のび太の“らしさ”が武器になるとき〜
この物語は、社員教育に関わるすべてのビジネスパーソンに贈る、ひとつの問いかけです。
「もし、のび太のような新入社員が入社してきたら――あなたなら、どう育てますか?」
第1話はこちらからお読みください。
「のび太くん、ちょっと時間あるか」
星川がのび太を誘ったのは、オフィスから少し離れた喫茶店だった。
先客は誰もいない、3坪ほどのこぢんまりとした店。いつもなら通り過ぎるような静かな店構え。
席につき、しばらく沈黙が流れたあと、星川が口を開いた。
「この前は……言いすぎた。君に対して、言っちゃいけないことを言った。すまなかった!」
「あっ……はい。だいじょぶです」
「いや、だいじょうぶじゃないよな…このとおり、許してほしい。」
星川は視線を落とし、続けた。
「……俺、ずっと成績だけは良かったんだ。県内の進学校から、そこそこ名の知れた大学に進んで、今ここにいる。なんとなく、順調にやってきた。でも……ずっと勝てなかった人がいてさ」
「勝てなかった人……ですか?」
「兄貴だよ。俺の兄ちゃん、医者をやってる。昔から頭良くて、優しくて、正義感もあって……俺にとってはヒーローみたいな存在だった」
「へえ……すごいですね」
「すごいよ。でも、俺も負けたくなかった。だから、仕事で成果を出して、いつか並んで立ちたかった」
星川はゆっくりと息を吐いた。
「でも、知らないうちに、人の気持ちとか、見なくなってたんだと思う。樫村さんのことも、のび太が気づいてたのに、俺は……」
のび太はゆっくりと口を開いた。
「僕……勉強は本当に苦手で。ドラえもんに助けてもらってばっかりの人生でした」
「……ん?」
「でも、映画のときだけやけに勇者キャラになっちゃって。困ってる人を見ると、なぜか動いちゃうんです。自分でも、よくわかんないですけど……えへへ」
星川はふっと笑った。
「君は変わったやつだな」
「すみません」
「でも──君のそういうところは、誰もがもっているわけじゃない。それが、のび太の武器なんだと、そう思うよ」
その日から、ふたりの関係は少しずつ変わり始めた。
【のび太、咲きはじめる】
「のび太くん、ちょっといい?」
「この前のヒアリング、録音聞いたんだけど、樫村さんがすっごいしゃべってて驚いたよ」
「のび太くんに話すと、なんか安心するってクライアント言ってたよ」
──いつの間にか、のび太のまわりには小さな評価が集まりはじめていた。
難航していた老舗陶器メーカーのWeb刷新案件では、
「じつは、社長の代替わりのタイミングでして……」
「次男が継ぐ話もあるんですが、社内にまだ不満があって……」
のび太が“ただ座って耳を傾けているだけ”なのに、クライアントの心の内がぽろぽろこぼれ出てきた。
別の案件では、ずっと意思疎通に苦労していた中華チェーンの広報担当者が、のび太との何気ない雑談を通して本音をぽろり。
「──SNSって、本当は怖いんですよ。炎上とか。だから……自分のせいにならないように、当たり障りないことばっかり投稿してて」
のび太の“打算のない”まっすぐな寄り添い方が、少しずつ、確実に信頼をつかみはじめていた。
【そして、風向きが変わりはじめる】
──のび太の不思議な能力が社内でも話題になってきた頃。
ミチシルの全社Slackに、一本の告知が流れた。
「大手住宅メーカーの新ブランド立ち上げにともなうマーケティングパートナー選定のため、コンペ参加企業を募集します。
社内選抜チームを編成予定。希望者は企画室までエントリーを」
数千万円規模の予算が動く、大型案件。
ミチシル創業以来の最大級プロジェクトになる──
社内がざわつく中、
のび太と星川の名前が、候補メンバーに挙がった。
「よっしゃあ!!」
星川は喜びを隠せなかった。
「僕、なにもできないのになんでだろ」
のび太は不安そうな表情で星川を見た。
星川はのび太に微笑んだ。
「のび太、君にしかできない役割があるから候補に名前が挙がったんだ。チームで戦うってことはそういうことなんだと、おれは思う」
──そして後日、企画室から届いた一枚の資料。
そこには、こう書かれていた。
【参加コンペ企業一覧】
・BuzzLinks株式会社
・ミチシル株式会社 ほか3社
星川が目を光らせる。
「……ついに直接対決だな。」
──第5話へ、つづく。
