この物語は、社員教育に関わるすべてのビジネスパーソンに贈る、ひとつの問いかけです。
「もし、のび太のような新入社員が入社してきたら――あなたなら、どう育てますか?」
「……Your Homeのセカンドブランドのコンセプトは、“リーズナブルなのにスタイリッシュ”これでいきます」
会議室に響いたYour Home CBO(Chief Branding Officer) の言葉に、同社社員たちの表情が一瞬かたまった。
大手住宅メーカーYour Home。
セカンドブランド立ち上げにともなうマーケティングパートナー選定のために声がかかったのは、のび太が勤めるミチシル他4社。
その中には因縁のBuzzLinksも名を連ねていた。
Your Homeのセカンドブランドコンセプトは
安さとお洒落の両立──確かにわかりやすい旗印だ。
だが、この会社の強みは創業以来ずっと、頑丈な構造と、何十年経っても崩れない信頼だった。
その価値を知る社員ほど、この方向性に戸惑いを隠せなかった。
星川とのび太は、その空気を敏感に感じ取った。
Your Homeの広報動画に一瞬映った従業員たちの固い表情(……本当は納得してないんだ)
──BuzzLinksの動き出しは想像以上に早かった。
ある昼休み、Your Homeの社員がスマホ画面を囲んでいる。
「これ見た? BuzzLinksのプレゼン動画すごいよ!」
映し出されていたのは、明らかにYour Homeのコンペを意識したプレゼンのデモ動画。
SNSショート動画でターゲットを3層に分け、初動で3万再生を確保する計画。
さらにインフルエンサーを絡め、地域別にUGC(ユーザー生成コンテンツ)を拡散──ハッシュタグ戦略まで練り込まれていた。
テンポのいい映像とキャッチーなBGMに、画面の中の“家のある生活”が鮮やかに描かれている。
「……BuzzLinks、やばいな」
デモ動画の噂はすぐに、ミチシルの耳にも届いた。
──翌週。
星川とのび太は、Your Homeの施主たちを訪ね歩いていた。
実際にYour Homeで建てた家に住んでいる人々の生の声に核心に近い何かがあることを2人は期待していた。
デジタルマーケティングを生業にするミチシル、そこに所属する二人の若者。やっていることはアナログで泥臭いことに他ならない。
しかし、体温の通った生の声を彼らは求めていた。
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「地震のときも、この家はびくともしなかった」
「ローンは大変だったけど、そのぶん安心して暮らせています」
「営業担当さんが、建てたあともずっと顔を出してくれるんです」
年配夫婦、子育て世代、単身者──気づけば、取材の協力者は50世帯に及んでいた。
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ープレゼン当日ー
先攻はBuzzLinks。
冒頭からSNS動画を流し、最新の分析データと事例を交えて、圧倒的なテンポと華やかさで畳みかける。
「シェアしたくなる住宅ブランド」をテーマに、若年層へ一気に浸透させるプランは、誰が見ても説得力があった。
会場の一部では、既に「BuzzLinksで決まりじゃないか」という空気さえ漂っていた。
続いて、ミチシル。
スクリーンに映ったのは、飾り気のない一枚の静止画──Your Homeの玄関前に立つ笑顔の家族。
BGMとともに映像が切り替わり、次々と顧客の声が流れる。
「安全性が一番だと思った」
「子どもが走り回っても安心できる」
「担当の方が本当に親身でした」
──若い夫婦、初老の夫婦、ひとり暮らしの女性、犬と暮らす家族。
画面がテンポよく切り替わるたび、Your Home社員たちが前のめりにスクリーンを見つめる。
それにしても、ミチシルは何世帯を紹介するのだろうか。
プレゼン会場にいる誰もがそう思ったのではないかというほどに、
何世帯もの顧客インタビューが続いた。
照明が落とされた会場の中、Your Home社長が抑えたトーンでそっと星川に声をかけた。
「……顧客インタビュー、何件撮ったんですか?」
星川ははっきりと答えた。
「今回、多くの顧客様にご協力いただき……50世帯ほど撮影協力をいただきました!」
Your Home社長は驚きを隠す事ができなかった。
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取材とインタビュー動画の発案はのび太だった。
「ストーリーは人の心を動かす。そして、ストーリーを伝えるのにとても効果的なコンテンツが映像なんです」
のび太は珍しく自信ありげに言った。
「のび太は映像コンテンツにくわしいのかい?」
星川は不思議そうに尋ねた。
「詳しいってわけじゃないけど、、毎年僕たちの映画で笑って泣いて、ほっこりした気持ちになってくれる人たちが沢山いたんです。映像のチカラは凄いんだなって、これは僕の実体験なんです。映像はバズって終わりとかじゃなくて、、、見た人の人生を変えたりする力をもつこともあるんです!」
のび太は照れくさそうに答えた。
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インタビュー取材50世帯という件数にYour Homeの社長は驚きを隠すことができなかった。
「50は凄い!・・・しかし、本当なら私たちがしなければならないことだ。」
星川は続けた。
「弊社は、Your Homeさんの強みは“安さとお洒落”ではないと考えています。それは、たとえセカンドブランドであってもです。Your Homeさんだからこそ提供できるのは、“若い夫婦でも手が届く、安全な住まい”だと考えています。豪華な装備を削り、一見質素でも構造は守る。新ブランドのコンセプトを覆すようなことを申し上げていることは重々承知しております!ですが、ミチシルは御社の本当の強みを若い世代の顧客様に伝えるお手伝いをしたいと考えております!」
Your Home社長の顔に怒りが滲まなかったと言えばそれは嘘になるだろう。
よそ者にそこまで本質を突かれたのだ。
しかし星川も馬鹿ではない。BuzzLinks優勢の戦況を察し、一か八かの勝負に出たのだ。
星川とのび太は、プレゼン会場の雰囲気がBuzzLinks優勢から少しずつ変わっていることを感じていた。
しかし、それは現場社員の反応でしかない。
星川が小さくつぶやく。
「現場の人たちの気持ちは掴んでいる……でも、わからんぞ。
のび太、気を抜くな」
「はい!」
──第6話へ、つづく。
